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成果主義について

「内側から見た富士通」という成果主義失敗暴露本がベストセラーになっています。
出てすぐに、業界では話題になっていた(というより本が出る前から富士通さんの惨状は話題になっていたけど)、それにしてもびっくりです。(書店に平積みになっている緑の本を見たときには、何が起きたかと思った)

あれを見ると、成果主義といっても、実態は曖昧な結果主義だったようですね。
結果主義というのは良い結果を出した人にはより多くの報酬を与えようという、とても判りやすい理屈だけが前面にでて、誰も反対がしにくく、しかも、給料カットやポスト削減、人員整理に好都合のとても恐ろしいシステムです。より多く刈り取った者勝ちで、数年先には荒廃した職場と顧客(ですらない敵対者)を残します。みんな、地道に種をまいて、水をやって芽の出るのをまっているなんて悠長なことはしません。(さらに、他人の果実を掠め取る者が横行します)
社員は(下手をすると顧客も)運命共同体で、お互い助け合っていかなければ、良い仕事はできないのですが、結果だけに執着すると、この共同体がばらばらになります。

なぜ西欧で成果主義が機能しているかというと、最初に職務が定義されて、期待されるアウトプットが明確で、その契約に基づいて勤労して、成果の達成度に応じて報酬が決まるシステムだからです。
当然、揃って4月に入社して、初任給がすべて一緒なんてことは起きません。年齢も関係なく、期待される成果に対して、契約をするので、新人でも高額の報酬を得る人間もでます。(当然、成果が期待できることを証明しないと採用されない訳ですが)
最初にゴールが決まっていて、それに双方が合意(契約)しているからあとで揉めないんですね。
それでも、自分の範囲の仕事しかしない、極めて不効率だと非難されてきたのです。

それに、少数のエリートがその他大勢を引っ張っていくシステムが特にアメリカで発達しています。
(日本人の兵隊、ドイツ人の将校、アメリカ人の将軍で軍隊を作れば無敵といわれます。)
徹底的な競争とエリート教育のシステムができているアメリカでは、成果主義は機能します。
(その代わり、誰でも仕事ができるように、マニュアル化が徹底されます。)

ところで、日本では、非常に優秀な現場の上に無能(になってしまった)上層部が乗っている組織ですから、なんとなく漠然とした目標があって、一生懸命努力したら(努力は報われるという信仰集団でもあります)みんなの力で、できなかったことも達成してしまった、というのが日本です。(だから、プロジェクトX なんですね。英雄物語より)
こんな、”がんばろう”風土に、成果主義という名の結果主義を導入したら、どういうことになるかは、富士通さんの例を待ちませんね。(でも、その当時は誰もわからなかったのでしょうね。わかる・気付くというのは難しいものです。)

運用上の問題でいうと、結構、上司が部下のことを把握していない企業って多いと思います。
そんな上司が査定をするわけですから、うまくいくはずがありません。
マネージャの皆さんは数字に追われてとても忙しいので、部下がどんな仕事ぶりか、気にする暇はないんですね、きっと。

その結果、成果主義というと、人事制度をいじって会社を潰しかねない、とんでもないものだというイメージが定着していると思います。(虚妄の成果主義という本もありましたね)
本当は違うのですが、簡単に導入できる代物でもないですね。

最近ITSSや人材育成のコンサルをやっている関係で、このあたりの勉強をずっとしているのですが、そこでわかったことは、「大切なことは見えない」ということではないかと思います。
よく数値化したがる人が多いのですが、簡単に数値化できることは本質的ではありません。
売り上げとその売り上げを立てるための行動や思考、戦略のどちらが大切だと思います?
重要なのは金の卵を産む鶏で、毎日生まれる金の卵ではないのです。
でも、どうやって卵が金に変わるのかは、よくわからないのです。
それでも無理にわかろうとすると、鶏(企業)は死んでしまいます。
(その見えないものを見せようとしているのがうちのスキル診断なのですが、宣伝はこのくらいで)

結局、マネージメント層の問題なんですね。
お前の仕事はこれこれだと明確に胸を張って言えるマネージャが沢山育っていないと、成果主義はうまくいかないですね。ところが、今のマネージャ層は、右肩上がり、年功序列によって現在の地位まで昇ってきたジェネラリストがほとんどですから、無理ですね。
俺の背中をみてみろ・・・背広がよれよれ・・・

そうそう、会社を伸ばそうというなら、中堅社員の再教育に投資をするのが、一番良いと私は思いますよ。そんなに人数も多くはないでしょうし、本人たちが思っているほど、現場を離れても業務が停止するということはありませんから。(それが分かるのが怖くて離れられない・・・困った)
ただ、年とともに新しいことの学習能力は低下しますので(ドキ)、全くの無駄に終わる危険性もありますが。

長くなりましたが、読んでくれた方ありがとうございました。


2件のコメント

  1. 成果主義について(2)
    コメントありがとうございます。

    終身雇用との関係ですが、これは別に日本固有のシステムではなく(戦前は日本でも終身雇用はなかったと聞いています)、右肩上がり成長企業において、採用される(暗黙の)制度です。どんなに優秀な人間であっても、全く新しい職場に移ってすぐに成果をあげることは至難の業で、その仕事を良く知っている人を本人がNoといわない限り雇用し続けるというのは、とても理にかなっています。
    ただ、土地神話と一緒で皆が当たり前だと盲信してすべてをささげていたところにバブルがはじけたのが、今の状況だと思います。
    企業の側に団塊の世代を中心にした高齢化する(つまり高コスト化する)膨大な社員にポストと報酬を提供できなくなって、暗黙の契約は正式な契約ではないからと切り捨てられてしまったことから、小室直樹さん流にいうとアノミーが起きた状態です。
    終身雇用制度の代替に成果主義をもってきたから、とても胡散臭いものになってしまいました。

    終身雇用制度というのは、雇用の安定保証と企業忠誠心をトレードオフする、長期積み立て人材評価方式ですので、社内でのマラソン競技に勝ち抜くためには、社内だけで通じるノウハウ、人間関係、評判といったものの価値が非常に高くなります。 その結果、三菱自動車に代表される、社外に対する感性の低下から企業存亡の危機に立たされたり、ITSSに代表されるエンプロイアビリティに着目したスキル向上に皆が血眼になるといったことが起きていると思います。

    ご指摘の終身雇用のインセンティブが働かなかったという点ですが、企業側が先に終身雇用を放棄する形で成果主義を導入して、いわゆるリストラという名の人員削減を実行したので、企業に対する信頼感、忠誠心が失われ、モラル低下が起こったというのが実際の姿だと思います。(別の尺度・原理への移行方法に失敗したということでしょうか)

    次に、強者・弱者の見方ですが、面白いエピソードをありがとうございます。
    ただ、私思うに、弱者に引っ張られてかなわんということより、理屈に合わないと彼らが感じたからではないかと思います。
    業績が悪化したらその責任者がいるはずで、その人間が責任をとらずに、あいまいな全体責任というのがまず理解できないと思います。
    また、より具体的には、各人のサラリーはその人間の市場価値によって決まっているという前提がありますから、ペイがDownすれば、より妥当なOfferをくれる企業に移り、そして誰も居なくなるということだと思います。
    アメリカでは、発言をしない人間は無能とみなされます。雉も鳴かずば撃たれまいという日本とは根本的に発想が違います。強者・弱者というよりは、個が立っているので成果主義がなじみやすいと思います。

    日本の成果主義の問題点として、成果があがる側でも起きています。そちらは、反論をするまえにとっとと会社を辞めて次のキャリアを形成します。(辞めれる人から辞めて行き、そして企業は空洞化する)

    ご指摘の自分の給与水準が実力と乖離している層(もらいすぎ)が成果主義に批判的なことは理解できます。誰しも既得権益は死守したいでしょうから。
    ただ、かなりの年齢になって、今更スキルを獲得して他社で活躍してくれといわれても・・・という深刻な問題がそこにはあると思います。

    #本来なら直接は関係ない成果主義とリストラ(正確には単なる首切り・人員削減)がリンクするのが今の風潮ですね

  2. Unknown

    突然のコメントご容赦ください。非常に面白いと思いましたので。2つほどどう考えたら良いかと思いコメントします。

    1つめは、終身雇用との関連です。日本においては終身雇用という閉ざされた世界の中で情報が蓄積される為、変なことはできない、と思っていたのですが(あいつひどいんだよ、という情報は例えば同期等を通じて部署を超えて伝わる)、上記の例を見るとそうでは無かったようですね。

    そして本来終身雇用であれば、働くインセンティブは無くなるはずなのですが、閉ざされた世界での情報蓄積という点が逆にインセンティブに働いた点が日本では在るかと思うのですが、成果主義のインセンティブの方が強かったということですかね。

    2つめは、強者・弱者の見方です。アメリカで成果主義になるのは、「俺より働いていない隣の人が俺と同じ給料なのは許せん」、と全員が思うからだと思います。10年程前に私の会社が全員の給料を下げた時にその話をアメリカ人の友人にしたら、「アメリカだったら全員その会社辞める」と言っていました。自分が強者で弱者に足を引っ張られるのはかなわん、ということかと思います。

    日本の成果主義に対する反論はだいたい、成果が上がるかわからない人の立場から来ている気がします。つまり今の給与レベル以下の仕事をしていることをある意味最初から認めているかのようです。その見方の違いがおもしろいと思いました。

    しろうとなのに長くなりすみません。

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