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異次元の戦い(ワールドカップ)

決勝まであと2試合になった。(唯一勝敗にこだわらない3位決定戦の中継がないのが納得いかないけれど。娯楽だけの試合をどうして流さないかな・・・)

準決勝でのスペインの戦いは異次元の戦いだった。
あのドイツが3つ以上パスが繋がらない。
スペインの読みとポジションと動きが良いため、最初にパスコースを制限されてしまい、パスが出ても、もうコースは無く、苦し紛れの精度の低いパスは、3-4人で囲みこんでいるスペインの守備網にひっかかってしまうという極めてロジカルなボール奪取の繰り返し。
一方スペインがボールを持つと、ポジショニングが良いために、複数のパスコースがあり、タッチの差なのだが、パスが通り、無理に飛び込むと簡単にドリブル、切り返しで抜かれてしまいピンチになってしまう。(そのため、途中から、ドイツ守備陣の積極性が失われるという悪魔の循環まで起きる始末。)
イニエスタに至っては、ドイツ守備陣が3-4人でがっちりマークしてもボールを失わず、その狭いパスコースを簡単に通してしまう。といって、パスコースに注意した瞬間にドリブル一閃、入れ替わって大ピンチとなるのだから、たちが悪い。 対面がレームだったから、猛威は”ボール保持”にとどまっていたが、守備の緩いアフリカ勢だったら大量点の状況だった。

特に、ゴール前の守備では違いが明らかだった。
ドイツはディフェンスが横一列に並んでしまい、その前のバイタルエリアでスペインをフリーにしていしまい、ちょっとボールを横に動かすだけでコースができて、危険なシュートを打たれていた。
一方スペインは、面での守備が機能していて、ドイツの攻撃は、スペイン守備陣の森の中でもがいても木(スペイン守備陣)に当たるだけで、効果的な崩しが皆無だった。(交代出場の選手がキーパーと1:1になったのが唯一のチャンス)

みんなアルゼンチンやイングランド、オーストラリアに4点もとって圧勝したドイツの攻撃力を過大評価していたようだ。基本ドイツはカウンターサッカーではまると強いがボールが取れないと打開が難しい。サイドのミュラーが居なかったことが攻撃に単調性につながったという分析もあるが、元々、イングランド戦での前半終了間際のバタバタといい、がっちり固められて先制されたセルビア戦といい、先行逃げ切り、弱い者いじめといった形で、実はゲルマン魂から一番遠いところに、いまのドイツ代表はある。マンガチックな例えだが、どんな相手でも必殺のクロスカウンターで沈める力がある矢吹丈が今のドイツの姿だ。(ドラマとしては面白いが、チャンピオンには今一ふさわしくないような・・・)

しかし、スペインにとっても、あのサッカーを7試合は続けられない。高い集中と運動量を続けて勝ち続けるのは物理的に無理だ。 ヨーロッパチャンピオンのチームを譲られたデルボスケ監督の最大の課題はそこにあったと思う。
不調のフェルナンドトーレスを使い続けた理由もそんなところにもあったのかも知れない。
(もちろん、復調して爆発する可能性もあるのだから、そちらを少しは期待しただろうが)
1次リーグから決勝トーナメント一回戦ぐらいまでは、バルセロナ風の高速パス交換を封印して、普通にポゼッションと固い守備で僅差勝ちで乗り切るというのが戦略だったのだろう。
結果、スイスの堅守の前に初戦を敗北するというのは流石に計算外だったろうが。

それにしても、レアルの監督だった人だけのことはある。 優勝するために最善のかたちを一番の強敵ドイツを相手にするまで温存するというとてつもない狸をやってのける。自分は前任者のシステムをいじりませんと無能で善良、平凡な監督を装って・・・。

そうなのだ。 どうも今回のワールドカップでは、1か月の大会を如何に勝ちぬくか、どう敵と”味方”をだますかという戦略についての分析がジャーナリズムを見る限り少ないと思う。
いやしくも、ワールドカップに出てくる代表監督が、そのレベルの考察なしにチームを率いているというのは考えにくい。(更に、我々が知りえないアンダーグランドでの情報戦、心理戦をしているはずだ。) もう少し、代表監督に対するレスペクトがあっても良いのではないかと思う。

あのマラドーナでさえ、きちんと対戦相手を分析して、最適な対策をうっている。
更に、その上に、チームメーキングに成功して、とても良いチームを作ったのだ。
ドイツとの対戦では分析と対策が外れて、逆に弱点を奇襲されての先制点が重くのしかかってしまい、ドイツ得意の戦場に引きずり込まれて最後はカウンターに沈んだわけだ。
今でも続投を支持しているアルゼンチン国民も単なるアイドルバカではない。みんながアルゼンチンチームが好きだったのだ。(わずかの差を不運と考えるか、能力の差と考えるかではあるが・・・)

その逆がドゥンガ。オランダ相手に別次元の前半を1-0で終わりながら、一番肝心な後半で規律が崩壊して逆転負け。規律を売り物にした代表監督が、一番力を発揮できるハーフタイムに”何を言えばこんな事態に陥るのか”という失態。実は、後半のプレーにしてからが、集中力の欠けたDFのプレーから入っている。そこにドゥンガの心理マネージャー・監督としての能力の限界を感じる。エマージンシー状況での対策の引き出しの少なさ、判断の甘さもある。 日本代表にドゥンガという声もあるが、私はNGだと思う。

話を戻そう。 デルボスケは優勝を狙って、7試合のプランを組んだ。
では、岡田Japanだが、ベスト4が目標だった。 ここで注意して欲しいのは準決勝進出が目標ということは、ベスト8での戦いに勝つまでが想定シナリオ。つまり、日本は5試合のプランを組んだはずだ。敗戦後、岡田さんがもう1試合このメンバーに戦わせてやりたかったというのは、情緒的なコメントではなく、”当初のプラン”と違ってしまった”懺悔”のセリフではないかと思う。
そうなのだ。彼我の実力差、StrongPointとWeekPointを分析して、のびしろを考慮して、到達可能な目標としてベスト4を”本気”で岡田監督は狙っていたのではないか。単なる気分やかっこいい目標設定のためだけにベスト4を掲げたのではない。緻密に分析した結果、ベスト4(準決勝進出)が実現可能だと考えたから、表明したのだと思う。
守備的なチームを作って善戦することぐらい、1998年のフランス大会で経験済みだ。
しかしベスト4となるとトーナメントで少なくとも2試合は勝たなければいけない。
そのためには、1次リーグで無失点記録を作ったスイスのようなディフェンスの強いチームや、北朝鮮に7点をとったポルトガルやスペイン、ドイツといったトップレベルの攻撃力のチームに終わってみて1点余計にとって試合をCloseしなければいけないわけだ。これは、普通に考えれば”あり得ない”目標・結果だ。極めてハードルは高い。(昨今の守備戦略の充実によって得点自体がとりにく状況なので、なおさらだ)
岡田Japanは、それだけの攻撃的なチームを作ることに準備期間のほとんどすべてが費やされたといえる。(柱に想定した俊輔が機能しない・劣化という想定外はあったが・・)
そして、結果的には岡田監督が考えていた攻撃的なシステムは発動することなく大会を去ることになったのだ。

思い出してほしい。 ジョホールバルの時、岡田監督は、FW二人を交換するという博打を売って、城の同点ヘッドを呼び込み、延長から岡野を投入することでフランスワールドカップの切符を引き寄せた。
今回の決勝トーナメント1回戦も、状況はほぼ一緒だ。(ゴールデンゴール方式で1点取れば終わりの延長戦といった違いがあるが・・・)
また、採った交代策もほぼ一緒だ。より一層、守備で立ち上がり、攻撃のメンバーを投入して延長で勝ちにいくというメッセージは明確だったと思う。
ただ、年齢かね、あの思い切りのよかった岡田さんが、今回は対応が遅れた。とった手段は適切だったと思うが、総てが後手後手だったと思う。
その結果、”疲労の蓄積”で、交代策が機能せず、PK戦に持ち込まれたわけだ。(後半から中村憲剛の投入があってもよかったし、FW投入は延長開始早々でよかったと今でも思う。)
そのあたりが、覚悟がたらなかったといった岡田監督の反省の言葉に表れているのかも知れない。
また、疲労のマネージメントということでは、決勝トーナメント1回戦というのが、ギリギリだったのかもしれない。(何しろ、ベスト16に他国で進出したのが初めてだったのだから)

今回、ベスト16でPK戦負けという経験をした。
しかし、はっきり言えば、これはドイツ大会で経験すべき内容だった。
コンディショニングの失敗で1次リーグ敗退というのは、やはり”何故ジーコ”だったのかということに行きつく。Jリーグを立ち上げたまでは素晴らしかったが、会長としては問題だったと思うぞ、川渕三郎は。

結局、日本はPKで負けた。 その結果、予定したいたはずの攻撃仕様の日本は実現することなく大会を去ることになった。
つくづく俊輔は運が無いと思う。
結局、当初のプラン通りマリノスに移籍が最初のタイミングで実現していればとか、エスパニョールの主将が顕在でパスサッカー中心のチームであればとか、大会前にねんざをしなければとか、ボールがジャブラニではなく今まで通りであればとか、レバタラのオンパレードだ。
どう考えても”ついていない”選手だった。

結果的に、岡田監督も、運気の落ちている俊輔をはずして、本田中心のチームを選択するなど、勝負師としての勘の良さもうかがえる。
ただ、終焉の試合が忌み嫌っていたTBSだったというのは、岡田監督も笑えない運命の皮肉だと思う。

そういえば、TBSを含めて岡田監督はメディアと冷戦状態だったが、TBSを筆頭にサッカーを潰しにかかっていたメディアの圧力を明確に意識していたのだと思う。
その一方で、代表監督の役割として選手を守り、作戦・情報を秘匿して、結果を手にするということがある。 ある時点で、メディアは有害であり、チームメンバーだけを、いかにサポートするかということに判断を固定して、それからは代表強化に専念したのではと思われる。
まあメディア対応含めてそれだけ本気だったと言うことなんだな。

考えてみれば、岡田監督はつまらない監督だ。
背伸びをすることもなく、できる範囲で、選手の今ある能力以上の戦闘力を引き出し、緊急事態に逃げることもなく、常に日本の救世主として結果を出し、攻撃を標榜しながら、結局は守備重視の良いチームを作って、ステップを1段1段着実にあがって、今は当初のプラン通り退任が予想される。

そんな岡田監督が、大好き。