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CDの緩衝用スポンジに注意

この悲劇を語るには、昔話から始めないと。

CDの規格が定まってSONYのD50が出て、ポータブルで良質な音楽が楽しめるようになったのは院生として大学に残って、バイトと奨学金で少しお金に余裕がでた頃だった。
その頃、よく遊びに行っていた助手の先生には変な友人が多くて、スタビライザーを使ってレコードの反りを抑えてより良い音を再現する、といったことを”普通に”していた人がいた。
なんでも、レコードは保管の時、どうしても反りが出るので、ポンプでレコード盤を吸着する道具があり、その重量もあって、より安定した回転によって高い精度の音がでるということだった。(実際に、のちに自分でも購入したが、機能したかというと・・・)
なんでそのような道具が必要になるかというと、デッカーがだしていたゲオルグ・ショルティー指揮による「ニーベルングの指輪」全曲というレコード界の金字塔の冒頭、無音の状態から長大なるクレッシェンドによって、最後は弦・金管入り混じった大音響に到達する導入部はダイナミズムや音の安定性を含めてオーディオの性能が試される部分である、という話だった。
実際に、この「ラインの黄金」の冒頭部分は、地底の奥底から自分が引き上げられる様な感じがして、今でも大好きなパートだ。

それで、自分でCDプレーヤーを買ったあとに、購入した一番大きなものが、丁度発売されていたCD版の「指輪」全曲だった。

私にとって、その黒い立方体のパッケージは、CD収集の原点とも言える貴重なものだった。
常にCDラックの一番上に君臨してきたのは、ワーグナーとショルティの肖像だったのだ。
ところがある日、久しぶりに取り出してCDプレーヤーにかけようとしたら音が出ない、跳ぶのだった。

なんだこれ?

どうやら、CDが劣化しているようだ・・・
慌てて、パッケージを確かめてみると、緩衝材として挟まれていたスポンジが劣化してぼろぼろになっており、さらに悪いことに、劣化したスポンジがCDの表面を侵食して、保護被膜を破壊していたらしい。(と、後で分かった)。
実際には、ボロボロの砂がこびりついてレーベル側がざらざらになっていた。
これを落とす時に、アルミ面が壊れてデータが消えていたのだ。

20年近くがたって、当時は複数枚セットのCDには普通に挟まれていたスポンジが最ももろく危険な物質だったのだとは、気付きもしなかった。

その結果、私の思い出のCDセットは再生不能に陥ってしまい、結局別のセットを購入することになった。そのため、今でも落ち込んだ時に、ラインの黄金を聞き、ワルキューレで気分を高揚させることができるのだが・・・
もう、思い出のCDから音は出てこないのだ。
(砂化したスポンジを落としたことで、透明になって向こうが見えるようになった哀しいCDだけが残された)

そして、今日、再び、アイーダの冒頭の1枚が同じ症状にやられた。
見つけ次第、スポンジは捨てるようにしているが・・・抜けがあった。
この悲劇を繰り返さないように、総てのCDをチェックしないと・・・